2010年12月24日金曜日

ふしぎのたね












「ふしぎのたね」(ケビン・ヘンクス/文 アニタ・ローベル/絵 伊藤比呂美/訳 福音館書店 2007)

だれかが、荒れ地にふしぎの種を植えました。でも、お日様はぎらぎら、空はからからで、芽はでません。いっぽう、子ウサギはちょろちょろ細いリボンのような川を渡り、冒険にいきました。あっちへいって、こっちへいって、とうとう迷子になりました。それから、子どもがいました。なにかしたかったのですが、なんにも思いつかなかったので、なんにもできませんでした。そのとき、雨が降りだして、小川は大きくなり、種は芽をだしました。

雨が降り、子どもは大喜びするのですが、子ウサギは濡れて寒くてひとりぼっちになってしまいます。それに、子ウサギは水かさが増えた小川を渡れません。ところが、子どもがいいことを思いつきます──。

子どもと子ウサギと種という、3つの視点からえがかれた絵本です。それぞれのストーリーは最後ひとつになり、子どもも子ウサギも種も、大変満足のいくラストをむかえます。絵は、厚塗りの、荒削りな印象のもの。充分に余白をとったレイアウトのため、全体にすっきりとしてみえます。3つの視点を用いて語られるストーリーは、作品に奥行きをつくりだし、何度も読み返したくなる一冊になっています。小学校低学年向き。

2010年12月22日水曜日

ちいさなリスのだいりょこう

「ちいさなリスのだいりょこう」(ビル・ピート/作絵 山下明生/訳 佼成出版社 1982)

都会の公園にあるカシの木に、マールという若くて臆病なリスが住んでいました。マールは、車の音や大きな灰色のビルディングに、いつもびくびくしていました。知らない国の話を聞くのが大好きなマールは、ある日、人間たちがこんなことを話しているのを聞きました。「西部のでっかい木にはぶったまげたぜ。そこらのビルディングよりももっと高くて、自分がありんこになった気持ちだったな──」。そこで、マールは勇気をだし、電線をつたって西部へいってみることにしました。

でも、リスの足ではそう遠くへはいけません。一日かけても町の外にでられなかったマールは、西部のでっかい木をみにいくことをあきらめて、公園にもどろうとします。が、電線に引っかかった凧をほどいていたところ、風が吹き、マールは凧と一緒に空に舞い上がってしまい──。

臆病者のリスが凧のシッポにつかまって、空を旅し、ついに西部にたどり着くというお話です。絵は、おそらくペンと色鉛筆をつかったもの。砂漠に落っこちそうになったり、竜巻に吹き飛ばされたりする、小さなリスの大冒険が溌剌とえがかれています。小学校低学年向き。

2010年12月21日火曜日

はしれちいさいきかんしゃ











「はしれちいさいきかんしゃ」(イブ・スパング・オルセン/作 やまのうちきよこ/訳 福音館書店 1979)

大きな駅の構内に、小さな機関車がいました。この機関車は、とても小さかったので、遠くへいかせてもらえませんでした。「せめて、隣の町までいきたいな」と、小さな機関車はときどきため息をついていました。ある朝、いつものように機関士さんが水を入れ、石炭をたき、「窓をふけば準備完了」と窓ふきをとりにいったとき、小さい機関車は「ポーッ、しゅっぱあつ!」と叫んで走りだしました。

小さい機関車はホームを走り抜け、広びろとした田舎を通り、ついにレールから脱線。夢にまでみた隣町へとむかいます。

つきのぼうや」で高名なオルセンの絵本です。小さな機関車が暴走していくさまが、とてもいきいきと描かれています。とくに冒頭、小さな機関車が駅の構内にむかって走りだすところは大変わくわくします。また、小さな機関車が暴走しているのに、周りのひとたちのリアクションがのんきなところが可笑しいです。機関車絵本はたくさんありますが、そのなかでも傑作の一冊でしょう。小学校低学年向き。

2010年12月20日月曜日

ひよこのアーサーがきえた!












「ひよこのアーサーがきえた!」(ナサニエル・ベンチリー/文 アーノルド・ローベル/絵 福本友美子/訳 文化学園文化出版局 2010)

アーサーは生まれたばかりのひよこでした。めんどり母さんは、アーサーをとても可愛がりました。アーサーが頭にのりたいといえば、頭にのせてやりました。

ところが、ある朝、めんどり母さんが朝ごはんをあつめてうちに帰ると、アーサーの姿が見えません。アヒルもオンドリも牝牛も、アーサーの行方を知らないといいます。そこで、めんどり母さんは、もの知りのフクロウ、ラルフを訪ねます──。

いなくなったひよこのアーサーを見つけるまでのお話です。このあと、フクロウのラルフがアーサーをみつけるまでのお話が続きます。物語はずいぶん起伏があり、読んでいると、いつアーサーが見つかるのかとはらはらさせられます。ストーリーにこくのある読物絵本です。小学校低学年向き。

2010年12月17日金曜日

つきのぼうや












「つきのぼうや」(イブ・スパング・オルセン/作 やまのうちきよこ/訳 福音館書店 1979)

夜空に昇り、ふと下を見たお月さまは、池なかにもうひとりのお月さまがいるのを見つけました。もうひとりのお月さまが気になってしかたないお月さまは、ある晩、月のぼうやを呼んでいいました。「ちょいと、ひと走り下へ降りていって、あの月を連れてきてくれないか。友だちになりたいのだ」。そこで、月のぼうやはかごを下げ、元気よく夜空を駆け降りていきました。

月のぼうやが、途中うっかり蹴飛ばした星は、流れ星になります。わた雲を突き抜け、飛行機を横切り、渡り鳥の群れに出くわしたり、風に吹き飛ばされたりしながら、月のぼうやは池にむかっていきます。

タテ35センチ、ヨコ13センチと非常にタテ長の絵本です。このタテ長の構図を、じつによく生かしたつくりになっています。読むと、自分も月のぼうやと一緒に空から落ちているような気分になります。オチも洒落ていて、楽しい一冊になっています。小学校低学年向き。

2010年12月16日木曜日

お月さまってどんなあじ?












「お月さまってどんなあじ?」(ミヒャエル・グレイニェク/絵と文 いずみちほこ/訳 セーラー出版 1995)

動物たちは、夜、お月さまを見ながらいつも、お月さまって甘いのかな、しょっぱいのかなと考えていました。ある日、小さなカメが一番高いあの山にのぼって、お月さまをかじってみようと決心しました。てっぺんまでいくと、お月さまはずいぶん近くなりました。でも、小さなカメには届きません。そこで、カメはゾウを呼びました。ゾウはカメの背中に乗りましたが、それでもお月さまには届きません。そこで、ゾウはキリンを呼んで──。

動物たちが、どんどん背中にのぼっていって、ついにお月さまを味見をするお話です。お月さまもだんだん昇っていくので、なかなか手が届きません。キリンのあとは、シマウマ、ライオン、キツネ、サル、ネズミと続きます。絵は、紙の質感をよく生かした水彩。オチが気が利いています。小学校低学年向き。

ヘスターとまじょ










「ヘスターとまじょ」(バイロン・バートン/作絵 かけがわやすこ/訳 小峰書店 1996)

ハロウィーンの魔女の服を着て、お友だちがパーティにくるのを待っていたワニの女の子ヘスターは、みんながくる前に、お隣りさんをおどかしてお菓子をもらおうと思いました。でも、それはやめて、ビルのあいだにある見知らぬ家のベルを押しました。そして、でてきたおばあさんにいいました。「おかしをくれなきゃ、いたずらするぞ!」。すると、おばあさんはにっこりしました。「さあ、さあ、お入り」。

おばあさんの家には不思議なお友だちがたくさんいます。それに、おばあさんの家は不気味なものでいっぱい。ヘスターはおばあさんと一緒にホウキに乗り、ビルの上を飛びまわります──。

ハロウィーン絵本の1冊です。ヘスターが訪ねた家のおばあさんは、どうやら本物の魔女のようなのですが、それをほのめかすだけにしているところがうまいところです。絵は、明るい色と、生き生きした描線から成ったもの。巻末に、ハロウィーンについての解説がついています。小学校低学年向き。

2010年12月14日火曜日

アイウエ王とカキクケ公












「アイウエ王とカキクケ公」(武井武雄/原案 三芳悌吉/作 童心社 1982)

昔、アイウエ王という王様が治める、アイウエ王国という国がありました。王様はやさしく、ひとびとははたらき者の、平和で豊かな国でした。アイウエ王国のとなりには、カキクケ公国という国がありました。その国は、カキクケ公という欲の深い公爵が治めており、いつかとなりのアイウエ王国に攻め入ってやろうと狙ってしました。また、アイウエ王国には、サシスセ僧という徳の高いお坊様がいました。動物たちまでが、サシスセ僧を慕ってあつまってきました。

さて、ある日のこと、カキクケ公はアイウエ王を狩りに誘いました。カキクケ公は家来を待ち伏せさせておいた森にアイウエ王を誘いこみ、王を捕らえ、タチツテ塔という気味の悪い塔に閉じこめてしまいました。そして、アイウエ王国は、カキクケ公の軍隊に占領されてしまいました――。

原案は武井武雄の「アイウエ王物語」。ダジャレでいっぱいの物語ですが、格調高い絵により、叙事詩のような風格があります。あとがきによれば、絵を描くにあたって、ノルマン制服を描いたバイユーの「タペストリーの絵物語」と、「ペリー公の絵暦」の「ポール・ド・リンデンブルグ」「ジャン・コローム」を参考にしたということです。

また、三芳悌吉さんは、故郷の活動写真館(映画館)で、日本語の上手な外国の老人が、「アイウエ王様」という物語を面白おかしく聞かせてくれたことをおぼえているそうです。その話は、じつは武井武雄の童話をもとにしたものでした。いつかこの話を絵本にしたいと思っていた三芳さんは、武井武雄の承諾を得て、この絵本をつくったとのこと。絵本の冒頭と終わりに、タキシードを着た老人が舞台にあらわれますが、これは活動写真館での思い出をえがいたのでしょう。小学校中学年向き。

2010年12月13日月曜日

王さまと九人のきょうだい












「王さまと九人のきょうだい」(君島久子/訳 赤羽末吉/絵 岩波書店 1978)

昔、イ族のある村に、年寄りの夫婦が住んでいました。ふたりはいつも、「子どもがほしい、子どもがほしい」と思っていましたが、すっかり腰が曲がっても、まだ子どもは生まれません。ある日のこと、おばあさんはあんまりさびしいので、裏の池のほとりで涙がこぼれて、ぽとーんと池のなかに落ちました。すると、池のなかから白い髪の老人があらわれて、「なぜ泣くのじゃ」とやさしくたずねました。おばあさんがわけを話すと、老人は黒い丸薬をおばあさんに渡しました。「ひと粒飲むと、子どもがひとり生まれる。九つあるから、みんなで九人の子持ちになるわけじゃ」

おばあさんはさっそくその薬をひと粒飲みます。が、1年待っても赤ん坊は生まれません。待ちきれなくなって、あるだけの薬をいっぺんに飲んでしまうと、まもなくお腹がふくらんで、ある日9人の赤ん坊が生まれます。でも、2人はひどい貧乏なので、とても9人の赤ん坊を育てることはできません。2人が涙をこぼしていると、またあの老人があらわれてこういいます。「心配はいらん。なんにもしてやらなくとも、この子たちはひとりで立派に育つのだ」。そして、老人は子どもたちに、「ちからもち」「くいしんぼう」「はらいっぱい」「ぶってくれ」「ながすね」「さむがりや」「あつがりや」「きってくれ」「みずくぐり」という名前をつけます──。

中国の民話をもとにした絵本です。ここまでが冒頭。このあと話は一転し、王様がだす難題を兄弟たちが解決していくという話に続きます。九人の兄弟が、無理難題を次ぎつぎに乗り越えていくさまが大変痛快です。文章はタテ書き。文章、絵ともに素晴らしい読物絵本です。小学校低学年向き。

2010年12月10日金曜日

きみなんかだいきらいさ












「きみなんかだいきらいさ」(ジャニス・メイ・ユードリー/文 モーリス・センダック/絵 こだまともこ/訳 富山房 1975)

ジェームズとぼくはいつも仲良しだったよ。でも、きょうはちがう。ジェームズなんか大嫌いさ。ジェームズはいつだって威張りたがる。クレヨンは1本も貸してくれないし、一番いいシャベルをとっちゃう。おまけに、砂まで投げるんだぜ。だから、もう、ジェームズなんか大嫌いなのさ──。

友だちとの仲がこじれた男の子のお話。男の子は、ジェームズと仲が良かったときにしたことや、嫌いになった理由をならべたて、ついには、「きょうからきみはぼくのてきだ」というために、ジェームズの家を訪ねるのですが…。

正方形の小さな絵本です。絵は3色。ケンカをしているときは雨降りですが、仲直りするとからりと晴れます。センダックのえがく男の子は、仲の良いときも悪いときも、大変いきいきしています。小学校低学年向き。

2010年12月9日木曜日

しょうとのおにたいじ












「しょうとのおにたいじ」(稲田和子/文 川端健生/絵 福音館書店 2010)

昔、けものや小鳥がまだものをしゃべっていたころのこと、しょうと(ホオジロ)というかわいい小鳥が、お地蔵さんの耳に巣をつくらせてもらい、3つの卵を生みました。そうして、「かわいや、かわいや」と毎日抱いていましたが、ある日、はたらきにでなくてはならなくなり、お地蔵さんに留守守りを頼みました。ところが、しょうとが飛んでいったすきに、山から大きな赤鬼がきて、卵をちょっと見せてくれと、お地蔵さんにいいました。はじめのうち、お地蔵さんは断っていましたが、見るだけだというので、ちょっと見せると、赤鬼は卵をひとつさらって飲み、たあっと逃げていきました。

このあと、青鬼と黒鬼(いずれも赤鬼が化けたもの)がやってきて、卵はぜんぶ食べられてしまいます。しょうとは悲しみのあまり、歌もうたわず、飛ぶこともせず、泣きの涙で暮らすのですが、ある日どんぐりがやってきてこういいます。「わが子をとられるほどつらいことがあろうか。しかし、力を落とすなよ。一緒に鬼退治にいこう」。鬼は大きいし、強い。こっちが負けるにきまっとる。そういうしょうとを、どんぐりは励まします。「いやいや、しょうとどん。小さいもんは頭をつかわにゃ。知恵で鬼のやつをごいーんとやっつけようじゃないか」。かくして、鬼退治にでかけたしょうととどんぐりは、途中出会ったカニ、クマンバチ、牛、臼、縄を仲間にし、みごと鬼退治にむかいます。

作者の稲田さんが、広島県で採話した話をもとに絵本にした一冊です。一見、桃太郎とサルカニ合戦をくっつけたような話ですが、「こどものとも」(1996年2月号 479号)として刊行されたときの折りこみふろく「絵本のたのしみ」によれば、「しょうと」のほうが古いと稲田さんはみています。また、川端健生さんが絵を描いた絵本は、この一冊のみだということです。方言を生かした文章と、ととのった日本画による、いうことのない一冊です。小学校低学年向き。

2010年12月8日水曜日

まいごのフォクシー











「まいごのフォクシー」(イングリ・ドーレア/文・絵 エドガー・ドーレア/文・絵 うらべちえこ/訳 岩波書店 2002)

フォクシーは、キツネそっくりの小さな犬です。ある日、思いがけず町の通りにでたフォクシーは、ご主人の男の子に匂いを見失い、迷子になってしまいました。暗くなり、雨も降ってきて、お腹はぺこぺこ。あるドアの前にうずくまっていると、突然ドアが開き、太った男のひとがフォクシーにつまづいて転びそうになりました。「やあ、きつねみたいなワンちゃん。どこからきたんだい? 迷子になったんだな。腹ぺこなんだろう。うちへおいで」と、太っちょのおじさんは、フォクシーを抱き上げてうちに連れて帰りました。

さて、太っちょのおじさんの家にいくことになったフォクシーは、そこでごちそうにありつきます。家にはオンドリと猫もいて、「音楽の時間」におじさんがフルートを吹くと、猫はピアノを弾き、オンドリはコケコッコーと鳴きだします。フォクシーも一緒にうたいだすと、「いや、うれしいねえ、うたう犬とは! 動物3人組で演奏できる!」と、おじさんは喜びます。そして、おじさんは宙返りやピラミッドなど、フォクシーにいろんな芸をしこみます──。

迷子になった犬のフォクシーが、太っちょの男に拾われて、芸をしこまれ、舞台に立つ…というお話です。カラーページと白黒ページが交互にくる構成。あたたかみのある絵は、おそらく色鉛筆でえがかれたもの。表と裏の見返しに、マンガがついています。ストーリーは、チェーホフの「カシタンカ」(児島宏子/訳 未知谷 2004)そっくりです。小学校低学年向き。

2010年12月7日火曜日

いたずらこねこ









「いたずらこねこ」(バーナディン・クック/文 レミィ・チャーリップ/絵 間崎ルリ子/訳 福音館書店 1980)

あるところに、庭の小さな池に住む、ほんの小さなカメがいました。となりのうちには、子猫がいました。ほんの小さな、でもいたずらな子猫でした。カメは毎日、ゆっくりゆっくり庭を散歩しました。ある日、カメがいつものように散歩をしていると、そこに子猫がやってきました。

子猫は、カメをみるのがはじめてです。用心しながらカメに近づき、立ち止まると、カメも立ち止まります。子猫が前足でポンとカメを叩くと、カメは首を甲羅に引っこめ、子猫は大いに驚きます。もしかしたら、もう一度叩いたら首がでてくるかもしれないぞと、子猫がまたカメを叩くと──。

生まれてはじめてカメと出会った子猫のお話です。まるで舞台のように、両端からカメと子猫がやってきて、真ん中で出会います。子猫は最後、少々かわいそうな目にあうのですが、そのしぐさは大変かわいらしくユーモラスにえがかれています。シンプルな絵本ですが、心地よい緊張感に満ちた劇的な一冊です。ちなみに、絵を描いたチャーリップは、「よかったねネッドくん」の作者シャーリップと同一人物です。小学校低学年向き。

2010年12月6日月曜日

すてきな子どもたち










「すてきな子どもたち」(アリス・マクレラン/文 バーバラ・クーニー/絵 きたむらたろう/訳 ほるぷ出版 1992)

あそこはロクサボクセンよ、といったのはマリアンでした。それは、どこにでもある、ごつごつした丘で、砂と岩、古い木の箱、サボテン、グリース・ウッド、それにとげだらけのオコティーヨのほか、なんにもないところでした。でも、そのロクサボクセンこそ、みんなが特別に気に入っていた場所でした。

マリアンが、黒くて丸い小石のいっぱいつまったブリキの箱を掘り出したとき、みんなは、あっ宝物が埋まってたんだなと思いました。それから何日間か、みんな頑張って宝探しをしました。こんなに一所懸命やれば、そのうち探さないでもみつかるんじゃないかしらと思えるほど。そのうち、ロクサボクセンの町は大きくなったので、石で区分けをし、家をつくりました。町役場ができ、マリアンが町長になりました。フランセスは家の境界線をコハク色、アメジスト色、青みがかった緑色のガラスや陶器のかけらでつくりました。まるで宝石の家のようでした──。

それから、ロクサボクセンの町には、パン屋さんが一軒と、アイスクリーム屋さんが二軒できます。みんな車をもっていて、というのもハンドルの代わりに丸いものをもっていれば、それで車になったからです。スピード違反は刑務所いき。でも、ウマならスピード違反も一時停止もありません。ウマがほしければ、棒きれと手綱みたいなひもがあればいいのです。ときどきは戦争もあります。一度は男の子対女の子の大戦争がありました。女の子はみんな、よくまとまって、アイリーンのお城を守りました──。

アリゾナ州ユマ町に、かつてロクサボクセンという名前で知られた丘があり、そこでくりひろげられた子どもたちによるごっこ遊びをえがいた絵本です。文章は、ロクサボクセンで遊んでいた子どもによる回想というかたちで書かれています。バーバラ・クーニーの絵が素晴らしいのはいうまでもありません。訳も素晴らしく、郷愁に満ちた一冊となっています。小学校中学年~大人向き。

2010年12月3日金曜日

オーケストラの105人












「オーケストラの105人」(カーラ・カスキン/作 マーク・サイモント/絵 岩谷時子/訳 すえもりブックス 1995)

金曜日の夜です。外はだんだん暗くなり、だんだん寒くなってきます。町のあちこちで、105人のひとたちが、仕事にいく支度をしています。まず、みんなからだを洗います。105人のうち、男のひとは92人、女のひとは13人。ほとんどのひとはシャワーをつかいますが、二人の男のひとと、3人の女のひとは、しゃぼんの泡でいっぱいのお風呂に入ります。それから、ヒゲをそったり、ズボンやくつ下をはいたり、宝石をつけたり、ひとりだけ白いネクタイに燕尾服を着たひとがいたりして、みんなは「いってきます」と、105のドアからでていきます。

105人のオーケストラの楽団員たちが、ホールに集合し、演奏をはじめるまでを描いた絵本です。お風呂の入りかたや、着るもの、はくもの、つけるもの、またホールにむかう交通手段まで、次々に列挙されるさまが楽しいです。絵は、イラスト風の親しみやすいもの。大勢の人物をみごとに描き分けています。本書のラスト近くで、105人がな音楽ホールにつどったのか、その訳がこんな風に明かされます。

「金曜日の夜 8時30分
 105人の 男のひとと 女のひとは
 黒と白の 服をきて
 白い紙に 黒で 音符が書かれた 楽譜を
 シンフォニーに かえるために ここへきたのです。」

小学校中学年向き。

2010年12月2日木曜日

栄光への大飛行










「栄光への大飛行」(アリス・プロヴェンセン/作 マーティン・プロヴェンセン/作 今江祥智/訳 BL出版 2009)

時は1901年、ところはフランスの町カンブレ。新しい車で家族とドライブにでかけたルイ・ブレリオさんは、空からクラケッタ、クラケッタという音がするのを耳にしました。おかげで、前をみるのをすっかり忘れ、荷馬車と衝突。そのとき、頭上に飛行船があらわれました。クラケッタ、クラケッタという音は、飛行船がだしていた音だったのです。飛行船を目にしたブレリオさんは、うちじゅうのみんなにいいました。「わしも空飛ぶ機械をつくるぞ。大きな白い鳥のようなのをな」。

まず、ブレリオがつくったのは、鳥のようにはばたく模型、ブレリオⅠ号でした。そのつぎは、モーターボートで引っ張って飛ぶ、グライダーのブレリオⅡ号。でも、ブレリオⅡ号はすぐ墜落してしまいます。そのつぎは、モーターとプロペラをつけたブレリオⅢ号。ブレリオⅢ号は、どうしても水面をはなれようとしません。プロペラとモーターを2つに増やしたブレリオⅣ号は、水の上にきれいな輪をえがいただけに終わります。ブレリオⅤ号は地面をぴょんぴょん跳ね、ブレリオⅥ号は原っぱのはしからはしまで飛んだものの、岩にぶつかってしまいます。でも、ついに、ブレリオはブレリオⅦ号で空を飛びます。

飛行機黎明期の偉大な先駆者、ルイ・ブレリオについての絵本です。巻末の文章によれば、自動車のライトについての発明で財をなしたブレリオは、それを飛行機の開発につぎこんだということです。本書は空を飛んだだけでは終わりません。ブレリオは、史上初の英仏海峡横断に挑戦します。そのあたりの文章はこんな風です。

「海峡のはばは 20海里あります。
 黒い波が うねっています。
 霧がたちこめ、雨がふります。
 おっこちたら、氷のような 水の中です。
 岸につくには、うんと 泳がなくてはなりません。
 どうかんがえても 危険です。
 つまり、パパの好みにぴったりなのです。」

絵は、落ち着いた色づかいの水彩。何度失敗してもめげない不屈のブレリオが大変印象的な一冊です。小学校中学年向き。

本書は、以前、「パパの大飛行」(脇明子/訳 福音館書店 1986)というタイトルでも出版されています。脇さんの訳のほうが好みだったので、紹介文は「パパの大飛行」にもとづきました。引用箇所は、「栄光への大飛行」の今江訳ではこんな風になっています。

「海峡の幅は20海里もあり、
 まっくろな波がうねり、
 霧がたちこめ雨がふる。
 落ちれば氷の水浴びになる。
 岸に泳ぎつくのはおおごとで、
 いやはや、危険がいっぱいだ。
 それこそまさに――パパが望むところ。」

2010年12月1日水曜日

にげろ!にげろ?












「にげろ!にげろ?」(ジャン・ソーンヒル/作 青山南/訳 光村教育図書 2008)

ヤシの木とマンゴーの森に、若いノウサギが住んでいました。ノウサギは、いつも心配ばかりしていました。食べるものがなくなったらどうしようとか、雨が降ったらどうしようとか。ある日、お気に入りの木陰で昼寝をしようとしたノウサギは、このときも怖いことを考えてしまいました。「もしも、世界がこわれたら、わたしは一体どうなるんだろう」。そのとき、真っ赤に熟れたマンゴーの実が、がさがさしたヤシの葉に落っこちました。「大変、世界がこわれはじめた」。ノウサギはぴょんと跳び上がると、ヤシの木とマンゴーの森のなかを必死で走りはじめました。

ノウサギは、花をかじっていた別のノウサギに、なぜ走っているのかと訊かれます。「世界がこわれはじめたのよ! あんたも逃げないと」。すると、そのノウサギも走りだします。噂はどんどん広がって、しまいにはノウサギの数は1000匹に。噂はさらに広がって、1000頭ものイノシシや、シカや、トラや、サイが、いっせいに走りだします。が、その群れのまえにライオンがあらわれます──。

インドにつたわるジャータカのお話を絵本にしたもの。このあと、群れを止めたライオンは、ほんとうに世界がこわれようとしているのか、昼寝の場所を、ノウサギと一緒に確かめにいきます。絵は、色の濃い、よく描きこまれた遠目の効くもの。総勢5千頭もの動物たちが走っていくシーンは圧巻です。巻末には、登場した動物たちについての解説がついています。小学校低学年向き。